SHARING LOVE, BEYOND THE BORDERLINE WITH OUR MUSIC!
前編では7人曲をレビューした。
この後編の記事では、通常盤に収録されているメンバーソロ曲について書いていく。
豪華アーティストと“HUG”
5thアルバム「I Scream」以来のメンバー全員のソロ曲が収録されている今回は、それぞれが“音楽でハグしたい”アーティストとの豪華なコラボレーションが実現した。
取って付けたようなコラボレーションではなく、以前から交流があったりファンだと公言していたりするアーティストから楽曲提供を受け、演奏やMix、ボーカルディレクションにまで参加してもらっていたりとガッツリとスクラムを組んでいるところに並々ならぬ力の入りようを感じさせる。
アルバム構成曲としてのソロ曲の存在
自分で詞を書いたり曲を作ったりできるメンバーもいる中、全員が他作曲をソロ曲として発表するのは、音楽を通して人と人との繋がりを広げていくという今回のアルバムテーマにのっとったものだ。
それに、収録順は前回のメンバーイニシャル順ではなく、楽曲の性質を鑑みた上での曲順になっており、ソロ曲もアルバム「FREE HUGS!」を構成する楽曲群の一つとして機能させている。
キスマイとavexが音楽に真正面から真摯に取り組んでいること、そこから素敵な作品をこうもたくさん産み落としていることにとても嬉しく思う。
▼参加アーティストコメント
2019.03.28 ニューアルバム「FREE HUGS!」で豪華アーティストとのハグが実現!&「ルラルララ」試聴も開始!
INFO | Kis-My-Ft2 Official Website
楽曲レビュー
Love=X2U(藤ヶ谷太輔)
作詞:藤原優樹
作曲・編曲:大沢伸一
MONDO GROSSOの活動ほか、女性シンガーをはじめとする多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供を行っている大沢伸一が藤ヶ谷と“HUG”。今回はMIXにも大沢が参加している。
ムーディーなダンスナンバーで描かれる妖艶な愛の世界は、藤ヶ谷のパーソナリティに見事にハマる。曲全体に起伏があるわけではないが、それがかえってアダルトな曲の雰囲気を増幅させている。
藤ヶ谷の甘美な歌声を引き立てるメロディが絶妙だ。抑えめに進行するAメロとサビ、グッとキーを上げるBメロのコントラスト。
シンプルだからこそさじ加減が難しいところだが、藤ヶ谷は見事に世界観をモノにしている。
歌詞は、「#1 Girl」でも作詞をした藤原優樹が手がけているが、タイトルといい歌詞で紡ぐ物語といい、本人作詞でなくてもここまで藤ヶ谷ワールドを作り出せるものなのだなと思わず唸ってしまった。
ドンズバなことを言ってるかに見せて至って抽象的な表現、相手の顔の見えなさみたいなところがさすがである。
キャッチボールをしよう(横尾渉)
作詞・作曲:ビリケン / 長江 徹
編曲:長江 徹
優しいアコースティックサウンドで父への感謝を歌う横尾ソロ。彼がかねてからファンを公言していたビリケンとの“HUG”が実現した。ビリーはギターでも参加している。
父を大切に思う気持ちが実直な言葉で歌詞に紡がれている楽曲。
ギターやブルースハープがメインのフォークソングはキスマイの作品では珍しいテイストだが、横尾がこれを歌うのは雰囲気がとても合っていて納得の取り合わせだ。
真面目すぎて不器用な似たもの親子の話を曲にするならそりゃこういうテイストになるよな…。しみじみ。
一つ一つの言葉を丁寧に歌おうとしているのが印象的。感情の込め方や息の抜き方でちゃんと聴かせる曲になっている。
以前キスマイANNPでメンバーから「横尾さんの読みは思わず聞き入ってしまう」というようなことを言われていたが、歌唱においても同じことが言える。
聴く者の耳をひきつける歌声を持っているのは、ひとつの才能であることに間違いない。
そこを彼自身とスタッフが丁寧に汲み上げて、今回こうして形になったことに感動を覚える。
僕だけのプリンセス(宮田俊哉)
作詞:MEGUMI
作曲:山田高弘
編曲:齋藤真也
王子から姫への愛がかわいらしく注がれる、宮田俊哉(CV.宮田俊哉)のキャラクターソングとも言える楽曲。
作詞はMEGUMIこと声優界のレジェンド・林原めぐみ。宮田念願の“HUG”が実現した。
作曲にはアニメ「ラブライブ!」内ユニットμ’sの代表曲「Snow halation」をはじめ多くのアニメ・声優ソングの作曲で知られる山田高弘が参加し、まさに神と神の融合によって爆誕した曲である。
ビッグバンド調の軽快で華やかなサウンドはキスマイの楽曲にはあまりないもので、デジタルサウンドが多いアルバム曲の中で異彩を放っている。
だが、華やかな音からアニソンのかおりがほのかに匂い立つところから見ても、このテイストを宮田がやるのは全く不思議ではない。
作詞のオーダーは「王子様が現代でお姫様を見つける話」だったとのことだが、林原によってより深く掘り下げられ「だれもがお姫様の部分を持っていて、そこを引き出すのが王子様の役目」という解釈*1 のもと、ファンタジックでありながら現実味も帯びたラブソングに仕上がった。
全体に宮田の出しやすいキーに合ったメロディラインで進行しているからか、声に表情がふんだんに織り込まれてミュージカルソングを聴いている気分になる。
基本的に甘く歌いながらも、転調後のラスサビで音階が上がるところは力強い。
宮田はテクニックよりも感情で歌う印象があるが、ひとつひとつのフレーズの解釈や息の抜き方一つにも神経が行き渡っていて丁寧な仕事ぶりが光る。
待ち合わせ場所で彼女を見つける1番、彼女との未来に思いを馳せる2番、実質プロポーズのDメロ、二人でこれからを歩んでいく落ちサビ~ラスサビのストーリー展開が絶妙だ。
どんなおとぎ話でも めでたし、めでたしの先
「幸せにくらしました」それだけのはずないからどんなおとぎ話にも めでたし、めでたしの先
そう、マニュアルはいらないさ 二人でつくりあげよう
「幸せにしてあげるよ」という一方的なものではなく、二人で苦楽を共にして生きていく決意を描くここのフレーズは、ファンタジーな中に極めて現実的な面を見せてくる。
二人が結ばれた後に続く時間のほうが長いわけだから、“めでたし、めでたしの先”を二人がどうしていくかが大事なのだ。
面白いのが、ラスサビ後に夢から現実に引き戻されたかと錯覚させる効果音がぶった切るように入るところ。
甘い恋人期間が過ぎても現実の二人の暮らしを二人で築き上げていこうというのをこのアウトロで誓っている。
そもそもの話、スウィングするサウンドと歌声とコンセプトの相性が抜群なのが、まいったな~~~かわいいじゃ~~ん!!!なのである。
世界名作劇場に追加しよう(???)
I miss your smile(千賀健永)
作詞:川畑 要 (CHEMISTRY)
作曲:Kyler Niko / Kanata Okajima / Soma Genda
編曲:Soma Genda
千賀ソロは「UTAGE!」共演で親交のあるCHEMISTRYの川畑要と“HUG”したR&Bバラード。作詞に加え、川畑自らボーカルディレクションにも参加した意欲作。
1番はピアノ1本で歌い、2A→2B→2サビと徐々に音が重なっていく展開。
シンプルで落ち着いたサウンドに程よくコーラスを乗せるトラックは、千賀のボーカルを聴かせるための構成と言ってもいい。それくらい本作のポイントはボーカルにある。
ロイヤルボイスとも例えられる千賀の歌声は甘い中に芯があり、強さの中に情感を込めるのが上手い。
語尾を強めに残したり軽く抜いたりを絶妙に使い分け、持ち前のビブラートもちょうどいいかけ方で響かせている。
もともとのポテンシャルの高さを、川畑によるディレクションでより引き出された形だ。
遠距離恋愛がテーマの歌詞には、会えないことへの不安を抱えながら苦しくなるほど相手を想う気持ちが描写されている。
心理描写がロマンティックに紡がれていてやや自己陶酔感もあるが、このくらい「君と僕だけの世界」に没頭するほうが千賀のドラマ性のある声に合う。
遠距離になると物理的な距離が心理的距離も遠のかせてしまい、上手くいかないことが増えたり終わりを予感させたりするというのに身に覚えがありすぎて、過去の傷口が開いていく感覚に陥った…心が軋む……(ウッ)
DON’T WANNA DIE(北山宏光)
作詞・作曲・編曲:I Don’t Like Mondays.
クラブミュージックとバンドサウンドを融合させたトラックに乗せて、死にたくないと思うほど愛しい相手との恋を歌う一曲。
今最も注目されているバンドの一つであるI Don’t Like Mondays.(以下、アイドラ)がオールプロデュース。演奏とコーラスにも参加している。
もともと、アイドラのデビュー前からボーカルの悠と北山が知り合いだったことから今回の“HUG”が実現した。
まずもってトラックが良すぎる。アイドラはこのクオリティの曲を提供曲にしてしまっていいの??自分らで歌うように取っといたほうが良かったんじゃないか???と心配になってしまうほど完成されたサウンドに驚かされた。
スタイリッシュなサウンドに乗るメロディラインは、最高到達点がmid2Eとなっており、キスマイ7人曲や他のメンバーのソロに比べても低めである。
このmid2Eに当てる時に地声とミックスボイスを絶妙に使い分けて曲の世界に引き込んでいく。
ゆびさきがきみにふれるたび
すこしだけじかんはとまるんだ
あえて地声一辺倒にせずミックスボイスで抜け感を出すことで、二人の時間の特別感が浮き上がってくる。
誰でも簡単にやれることではないので、ここの歌い方はいくら賛辞を送っても足りないくらいだ。やっぱり北山宏光ってすごいな…。
英語詞混じりの軽やかな歌詞は、まるで北山本人が書いたかのような微かなキザさが感じられる。
北山に寄せた部分もあるかもしれないが、アイドラ楽曲は結構この手のワードセンスで書かれているので、本当にめぐり合わせが良かったのだろう。
余談だが“指先が君に触れるたび~”のセクションをBメロと呼ぶべきなのか、それとも“I don’t wanna die tonight~”を含む2段階サビの前半と言うべきなのかどうか。
それを言ったら藤ヶ谷ソロもBメロ→サビというよりサビ→サビって感じだしな…。
盛り上がりの沸点を考えるとサビ→サビのほうが合うのかもしれない。こういう構成の曲ができるのもまたアルバム曲ならではだ。
はぐすた(二階堂高嗣)
作詞・RAP:Diggy-MO’
作曲:Christofer Erixon / Josef Melin
編曲:前田佑
二階堂は元SOUL’d OUTのDiggy-MO’と“HUG”。Diggy-MO’はリリックとボーカルディレクションで参加している。
彼が参加していることからお察しの通り、ゴリゴリのHIPHOPナンバーである。
SOUL’d OUTといえば2000年代のHIPHOPのブームを牽引したユニットの一つで、当時10代だった現アラサー世代(というかニカ千世代)の私にはドンピシャで刺さりすぎて窒息しそうなのだが、まさか二階堂ソロでDiggy-MO’を引っ張ってくるとは思いもよらなかったな…冷静に考えてもやばいよ……。
モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」をモチーフにしたハードなトラックに遊び心満載のリリックが乗り、二階堂がハイレベルなフロウを展開する。
単なるジャニーズラップ曲と思ったら大間違いだ。油断してたら顎を外されるしこめかみを撃ちぬかれる。
これまでキスマイや舞祭組の楽曲でラップを任される機会が多かった二階堂だが、パワー系ラップスタイルに加えてDiggy仕込みの鬼滑舌高速ラップを自分のものにしており、ここに来てラップの才能が一気に爆発した形だ。
勘の良さと器用さが惜しげもなく発揮されている。
タイトルからは想像もつかないハードなサウンドとハイレベルなラップが次々と繰り出され圧倒してくるのだが、やはり聴かせどころの無音ラップがとてつもない。
フロウの難しさはもちろん、ワードのリンキングも独特で、まさに息を呑む15秒間だ。
冒頭の印象的な“あらら”のフレーズは、Diggy-MO’がシグネチャーのように多用するフレーズなのだが、それをこの「はぐすた」にも入れ込んできたのは激アツである。
他にもサビの“ニカニカ”とか“はぐすた”というフレーズに遊び心があってやみつきになるし、ハードなサウンドでありながらリリック自体はTheアイドルに仕上がっているのが面白い。
ヒップホップってラッパーのバックグラウンドが透けて見えたほうが面白みが増すので、二階堂高嗣がかわいい人であるのが図らずも証明された形となって私は嬉しいよ。
Love Story(玉森裕太)
作詞:平井 大 / EIGO
作曲:平井 大
編曲:平井 大 / 西 陽仁 / NabeLTD / EIGO
アルバムラスト曲は、玉森が歌うサーフミュージックのラブソング。“HUG”の相手はサーフミュージックの名手・平井大。作詞・作曲・編曲に加えてコーラスとギターにも参加している。
波の音がバックに流れるギターのリフに乗せて“君”への愛を真っ直ぐに投げかけてくるラブソングを、玉森が音に寄り添いながら歌う。
夕暮れの波打ち際で口ずさんでいるようなリラックスした雰囲気でありながら、どこか寂しさも漂わせる。
“Missing you so bad(とても恋しい)”“Loving you so bad(とても愛してる)”と想いを強調しているが、それなのになぜ一人でビーチに佇んで待っているのかまでは見えてこない。
二人の関係性について詳しく書かないからこそ、普遍的なラブソングとして成立するのだろう。
こういう静かに進行していく曲で聴かせるのはボーカルの技量が問われるところだが、音の入りと終わりのニュアンスや音階に対してのアプローチがめちゃくちゃうまい。
玉森は、平井大の仮歌を聴いて発声や歌い方を意識してみたと話しているが、聴いて近づけることができるのは耳が良い証拠だ。
べらぼうに高いキーが頻発するわけでもないし派手なフェイクもないが、フレーズよりももっと細かく小節や音符単位で、しゃくりやポルタメント、明瞭に発音される子音、喉を締めた発声などを細かく散りばめて色付けをすることで表情豊かな歌唱になっている。
サビのワンフレーズをとってみても、神経の行き届いた表現をしているのがわかる。
ほんの少しためてしゃくり、gを落としてYouを響かせる。“どう”でなめらかに降りて“ば”をbaではなくvaに近い発音に。“の”は消えないようにしつつも柔らかに着地する。
ここだけでこれだけの処理がなされている。
玉森はソロ曲を発表するたびに上手いと思わせる点が増えていくのがすごいし同時に恐ろしくもある。底知れぬ人だ。
おわりに
3年ぶりのメンバー全員のソロ曲。豪華なアーティストとの“HUG”によって化学反応を起こした個性豊かな7曲は、キスマイメンバーにとってもファンにとっても珠玉の作品となった。
アルバム「FREE HUGS!」全体を通して、自分たちの音楽の可能性をまだまだ広げることができると示したKis-My-Ft2。
キスマイの音楽を通して愛を共有し、ボーダーラインを超えたその先に、彼らとどんな景色を見られるのか楽しみである。
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*1:POTATO 2019年6月号 p21